映画『シバサシ』を観て

シバサシという映画を知っていますか?
猪股東吾/大袈裟太郎 2025.06.11
誰でも

先週、沖縄市のシアタードーナツで『シバサシ』というドキュメンタリー映画を観た。

現・うるま市の金武湾にかつて計画された工業コンビナート建設に、1960年代、70年代の住民たちが反対した「金武湾闘争」を描いた作品だ。

もしあのとき住民が声を上げなければ、現在の海中道路の周辺は今よりもっと広大に埋め立てられ、そこに原子力発電所が建設されていたという——その事実にまず、強い衝撃を受けた。

同時に、こうした歴史が語られることなく風化し、住民運動そのものが軽んじられるようになってしまったことに深い懸念を抱いた。

過去に声を上げた人々のおかげで得られた恩恵の上に私たちは生きているというのに、今、声を上げる人たちに対しては“テロリスト”や“スパイ”のように扱う風潮がある。

そんな空気に嫌気がさしていたが、この映画は、そうした世相を正面から突き破るような誠実さと力強さに満ちていた。

『シバサシ』は、金武湾闘争の記録であると同時に、その中心人物・安里清信の人生を軸に、戦前・戦中の沖縄にも光を当てている。

自分も映画制作のなかで感じていたが、戦前の沖縄を語る映像資料や記録は本当に少ない。

その時代の空気を映し出す映像として、極めて貴重だった。 この時代の沖縄で人身売買が横行していたという事実も、この映画で初めて知った。

映像表現としては13年前の作品らしく、エフェクトや処理に多少の“古さ”を感じる場面もある。 最初はそこに少し不安を覚えたが、それもすぐに消えた。内容に込められた誠実さや言葉の力が、それを凌駕していたからだ。

過度なエフェクトは必要はない。 新鮮な素材があれば、塩だけで充分に美味い料理になる—— 『シバサシ』は、まさにそんな作品だった。

心に深く残る言葉がいくつもある。

「佇むことの豊かさ」 「戦争を“軍事衝突”と表現するのは、美談化だ」

これほど誠実で力強いドキュメンタリーが知られておらず、配信すらされていないことに驚いた。 さらに衝撃だったのは、この作品を撮った監督が、名護の私の家の近くで、別の自営業をされているということだった。

ネットには決して姿を見せず、黙々と日々を営みながら、静かに鋭い作品を残す。 そんな無骨で誠実な知識人が、まだこの街に生きている。

私は、そういう存在を心から敬愛している。 だが、今の時代においては、それはむしろ逆風の中にいる存在なのかもしれない。 そう思うと、悔しく、腹立たしい。

だからこそ、私のような人間がこの作品を広めるべきなのだとも感じた。

ぜひ、多くの人に観てほしい。

「シバサシ」はシアタードーナツで6月25日まで代表の宮島さんによる紹介動画です

↓ミニシアター in 映画マニア - 2025年5月30日放送 - #66 映画「勝ちゃん 沖縄の戦後」「シバサシ -安里清信の残照-」「長編ドキュメンタリー映画 ひめゆり」

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